Jazzギターの音作り考察
Jazzのギターといえば、高音域が抑えられた、メロウで甘い、どちらかといえばしっとりとした音を思い浮かべる人が多いだろう。
実際、有名なJazzギタリストは、どちらかというと小さな編成で演奏していることが多い。具体的には、ギターのデュオや、ギター、ベース、ドラムのトリオといった具合だ。
逆に、トランペットやサックスなどのフロントのバックとして演奏したり、ピアノとカルテットを組んだりすることは少ない印象である。
これはなぜか? というと、私は、Jazzにおけるギターの音作りに問題があると考えている。
Jazzギターの音作り
プロのギタリストの音源を参考に、Jazzギターの音作りについて考えてみよう。
今回は、私の完全なる独断と偏見により、(1) メロウ系、(2) アコースティック系、(3) 歪み系、の三つに分類してそれぞれの長所と短所を見ていく。
そして最後に、私なりの理想的な音作りについて述べたい。
(1) メロウ系
これぞJazzギター!と言いたくなるような、メロウな音を奏でるギタリストといえば、Jim HallやJoe Passではないだろうか。高音域の抑えられたふくよかな音の感じは、下の動画を少し見てくれればわかってもらえるだろう。
ちなみに、Jim Hallと共演しているPat Methenyも、この動画ではなかなかしっかりとHighをカットしている。
Pat Metheny & Jim Hall - The Great Guitars
Joe Pass - Meditation
ほの暗い、哀愁漂う夜の雰囲気を味わえるのが、こういった音の醍醐味だろう。
夜に一息つきたいときにはピッタリである。
同系統の音をしているギタリストも多く、まさに王道の音作りだ。
一方で、こういった音では、どうしても力強さとか、激しさを表現するのは難しい。
つまり、この音作りでピアノやホーン隊と演奏すると、完全に埋もれてしまうのである。
そもそも、楽器をやっている人は、みんなどれだけ「いい音」を出すかに苦心していると思う。
心地よい倍音をどれだけ出せるか、ということだ。
なのに、なぜJazzのギターに限り、高音域を思い切りカットしてしまうのだろう?
Jazzギターらしい音を出す代わりに、楽器としての可能性を自ら狭めてしまっているように私には思える。
(2) アコースティック系
さて、次はアコースティック系だ。これには、大別して、アコースティックギターをマイク録りしている場合と、エレキギターだができるだけアコースティックな音に近づけている場合に大別できると思う。
マイク録りとしてはガットギターで有名なToquinho、エレキの代表としてはJulian Lageを挙げよう。いかに参考動画を置いておく。
Paulinho Nogueira & Toquinho – Toquinho Paulinho Nogueira
Fred Hersch with Julian Lage - Beatrice
どちらのギタリストも、(1)のメロウ系と比較して低音域から高音域までまんべんなく出ている。
この系統の音作りの良さは、なんといってもギターそのものの音を表現できることだろう。
良いギターを使っていればそれだけいい音になるし、鳴らないギターで演奏すればダメダメな音になる。
また、倍音がしっかり出るため、ホーン隊やピアノに埋もれにくく、大きな編成の中でも存在感を示せるのが魅力的な点だ。
ピッキングのニュアンスも良く出るので、上手なギタリストであればあるほど、表現力豊かに演奏できるのも特徴だろう。
逆に言うと、相当注意して引かないと、粒の揃っていない、聴きづらい演奏になること請負いの音作りでもある。
また、短所としては、ある意味ギターらしい、田舎臭くて泥臭い音になりがちな点が挙げられる。
ブルージーといえば聞こえはいいが、アーバンなJazzを演奏したいときには注意が必要だろう。
魅力的だが演奏者のテクニックと耳が肝になる、そんな音作りだと思う。
(3) 歪み系
歪み系といっても、JazzではRockなどのように大きく歪ませた音を使うことはほとんどない。
したがってここで言う「歪み」は、上にあげた二系統に比べて歪んでいることを指す。
そういった音を使うギタリストとしては、大御所のWes MontgomeryやKenny Barrelが挙げられる。
Wes Montgomery Live In 65
Kenny Burrell - All the Best
どちらも、コードを弾くと多少ブーミーであったり、ざらざらした感覚を伴うくらいの歪みで演奏している。
この音作りの良さは、なんといっても単音を弾いた時の力強さである。
この力強さは、フロントマンとしてギターを弾く際には非常に重要となる。
実際両者とも、サックスとダブルフロントを組んだ演奏が多く残っている。
かといってコードはダメかと言ったらそうでもない。
音の分離は悪いかもしれないが、程よく混ざってコード全体としてのニュアンスを伝えられるのもいいところだと思う。
さて、短所は、人によってはJazzになじまない音と感じる人がいるかもしれない点だ。
特に、(1)のメロウ系こそJazzギターの音だ!と信じて疑わない人からすれば、歪んだ音はただの汚い汚れた音にしか聞こえないのかもしれない。
この短所は、もう完全に好みの問題なので、演奏者が良い!と思ったらどんどん歪ませても良いのだと思う。
また、よくよく考えてみると、ほかの楽器隊も皆歪んだ音を持っているものなのではないだろうか。
サックスなどでも、ここぞというところで歪んだ「ワルな」音を吹くことがある。
ギターだけ、クリーンな音しか使ってはいけない、なんてことはないはずだ。
終・私にとっての理想的な音作り
さて、ここまでJazzギタリストの音作りを三つに分類して考察してきた。
そのうえで、私なりの理想の音を一文で言うなら、「歪むか歪まないかぎりぎりくらいの、可能な限りアコースティックな音」になるかと思う。
つまり、(2)と(3)の間くらいの音だ。
私には、どうも(1)のメロウな音はあまり肌に合わないらしい。
それこそソロギターとかで弾くなら最高の音だと思うのだが、アンサンブルの中で見ると、どうしても埋もれ、かつ他から浮いてしまうと感じるためだ。
具体的な音作りだが、まずクリーンでできるだけアンプなしの音に近づける。
このときとかく低音が出すぎるので、抑える。逆に高音は耳障りにならないよう注意しながら上げる。
その後、軽い歪みのかかるエフェクターで、ブロックコードを弾いたときのみわずかに歪むくらいの音に調整する。
最後に、少しだけリバーブをかけて、ほかの楽器との調和をとる、といった具合だ。
まだこれらを全部クリアした、おいしい最高な音、を見つけられたわけではないが、これからも継続して自分だけの音を追い求めていきたい。
余談だが、この記事を書こうと思った理由は、近年、Jazzギタリストの中で(1)のメロウ系音作り信仰があるように思ったからだ。
要するに、私は最近、メロウ系Jazzギタリストが増えすぎているように思う。
だが、上で見たように、歴史的に見たらむしろブーミーであったり、アコースティックな音を奏でるギタリストが多かった。
今一度、ギターそのものの音の特徴を捉えなおして、良さを最大限に引き出せる音作りが普及すればと思う。
そうすれば、Jazzの編成の中におけるギターの立ち位置ももっと明確になり、Jazzギターという分野のさらなる発展につながるのではないだろうか。